中野サンプラザの特徴的な壁面をドローンで点検する外壁調査と建物間飛行の実証実験が2022年1月に実施されました。実証実験の先にある社会実装、そして新たな産業空間の創出を視野に活動されている、一般社団法人日本建築ドローン協会(以後、JADA)の副会長・宮内博之氏と理事・二村憲太郎氏に建築ドローンの活用、そして今後の発展性についてお話をお伺いしました!
副会長・宮内氏ーーーー
一般社団法人日本建築ドローン協会は建築分野におけるドローンを活用できる人材の育成、技術支援を目的に2017年9月に創設しました。
2015年の首相官邸にドローンが落下した一件が大きく取り上げられ、世間の関心の高さと安全性の重要さを強く感じました。当時はまだドローン研究に関する環境が整っていなかったので、日本建築学会の中でまず着手しました。ドローンの社会実装実現のためには『産官学連携』が不可欠だったことから、2016年には三信建材工業の石田様に日本建築学会のワーキンググループにご参加いただきました。
(JADA会員である三信建材工業様をご紹介した記事はこちら▶点検ドローンのパイオニア・三信建材工業の新技術開発にかける想い)
2017年、企業・国・学術機関のどれかに依存することなく、まんべんなく意見をいただく産官学連携体制でJADA創設となりました。
法人会員のリストを見ていただければわかりますが、本来であればライバルとなりうるような同業社も参加していただいています。
副会長・宮内氏ーーー
JADAは実証実験を行うだけではなく、その先にあるドローンの社会実装の実現を目的に活動しています。現在は社会実装のための前段階と言えます。
実証実験の後には、建築業界でドローンを扱う職業、雇用の創出を目指しています。
そのために、一般的なドローンに関する知識に加えて、建築物の施工管理や点検調査といった建築業界の実例を盛り込んだ『建築ドローン安全教育講習会』を実施しています。『レベルアップ研修会』なども用意しており、近い将来、『建築ドローン飛行責任者』という肩書の職業ができることを期待しています。
理事・二村氏ーーー
もともとは、2019年に宮内氏のもとにドローンで産業を起こしたいと中野区からご相談があったことがきっかけでした。昨年2021年に中野区、国立研究開発法人建築研究所、一般社団法人日本UAS産業振興協議会、そして我々一般社団法人日本建築ドローン協会の4者にて覚書を交わし、今回の公開実証実験に至っています。
ドローンジョプラスーーー
実証実験の様子を拝見したところ、屋上から地上に向かって「釣り竿を垂らしている」かのような光景でしたね!(上記写真)
理事・二村氏ーーー
こちらの装置は釣り竿のように見えますが、実は釣った魚を引き上げる「網の柄」だそうです。(笑)大手釣具メーカーと共同で、このために開発しました。
この装置でラインを張り、ラインに係留された点検ドローンを上下に操作し、外壁を撮影します。ただ、今回のようにビルとビルの間のようなGPSが途絶えやすい環境では、マニュアルモードでの操縦が必須になるため、パイロットの腕が問われます。ラインがない場合、パイロットとしては衝突を避けるため建物から離れたくなる心理が働きますが、ラインが確保されていることで安全性が確保され安心して飛ばせるようになる効果もあります。
副会長・宮内氏ーーー
JADAとしては中野区の実証実験を、実験だけで終わらせることなく社会実装させていくところまでを目的としています。実証実験がその後どうなったか?が大事だと思っています。社会実装を見据え、JADA単独ではなく、ドローン団体、建築団体と協業・協力をして進めていくこと、そのキーワードが「係留技術」であり、「建物点検調査」がその第一歩になると考えています。
(「係留技術」による、都市部・建築への実装実験の詳細についてはこちら)
理事・二村氏ーーー
本職はゼネコンに勤務しており、ある時、会社から「ドローンを買ってきて」という指示を受けたことがドローンとの出会いになりました。ドローンをどこで売っているのかもわからず、ドローンのメーカーを訪れたのが2015年のことです。
2機購入したものの、飛ばせる人がいないということで私が飛ばすことになりました。やってみたら面白いもので、本社の会議室で組み立てて飛ばしていたのですが「ピーピーうるさい!」と言われ、当時は飛ばす場所にも困りましたね。(笑)
現在弊社では、現場の所長から営業マンまで幅広くドローンを扱っています。1名女性パイロットもいて、レーザードローンも駆使し災害現場や測量の現場で活躍しています。
副会長・宮内氏ーーー
私は韓国の大学に勤務していた時期に飛行機移動が多く、飛行機で移動していると地上では想像しないようなことを思いついたり、期待感や高揚感、空間浮遊することの楽しさを体感していました。
通常の生活空間は二次元空間にあり、必ず地上(床)があります。飛行機に乗るような特殊事情を除き、人は人生の99.99・・・%の時間を地上で過ごしますよね。
そこで、三次元の空中空間で何か生活や産業が生まれたらいいな、と思っていました。目指すのは「ラピュタ」のような空中都市空間です。空中に生活空間が生まれたら、それが新しい産業を生みます。
それを実現できるツールの一つがドローンであり、私が目指しているドローンで実現したいところからみると現状はまだ10%にも達していませんね。
以前、国際宇宙ステーションから映し出されるリアルタイム映像で地球を見る体験をしました。その時にも上空に行けば行くほど時間スケールが長くなるのを体感し、人生観が大きく変わりました。そのような経験を経て、今は上空400kmの宇宙空間から、上空150mでドローンを扱っているといったところですかね。
理事・二村氏ーーー
JADAは『ドローンx建築』、つまり建築分野にドローンを有効に利活用することを目的とした組織です。災害時に倒壊した建物に入って被災者がいないか確認したり、今回のような外壁点検、屋上利用から天井裏といった屋内利用も含めると、活用の範囲は無限にあります。
副会長・宮内氏ーーーー
一般的にドローンを飛ばすというと、ほとんどの場合は屋外の無限空間を想定しています。ですが、建築業界においては屋内空間でのドローンの利活用も期待されています。
JADAでは「建築狭所空間ドローン利活用ワーキング」を立ち上げ、マイクロドローンの環境整備についても取り組んでいます。30センチ空間を飛ばすこの分野はまだまだこれからなので、今後の新たなトレンドになるでしょう。
理事・二村氏ーーーー
都市におけるドローンの発展とともに、ドローンと建物の関係も重要となります。今後は、ドローンへのビル風や建物からの電波の影響など都市特有の安全への課題や、居住者へのプライバシーの保護など、考えることがたくさんあります。
副会長・宮内氏ーーー
JADAには、点検調査分野の他にも、ドローン開発者や操縦者、無線・電波関係者、消防や防災に関わる方、空調関係や鉄道関係者など様々な分野の方に参加いただいています。JADA単独では難しいことも、建築関係者やドローン関係者と協力することで実現できるからこそ、そのためのプラットホームになりたいと考えています。
ドローンの発展は人との共生が必須、人とドローンがともに発展することでさらなる付加価値を生みます。建築空間の中心は人、建物と人の安全を確保する建築業界だからこそ、人と一緒に発展するドローンの利活用がJADAの目指す姿と言えるでしょう。
「ドローンの発展は人との共生ありき、扱う人の進化も不可欠。」との言葉どおり、建築ドローンの技術力向上と人材育成の両方に注力されているのが伝わるお話でした。
最後に、「今後益々飛躍して行くドローン市場において、”女性”が参入して行くことの価値はなんですか?」とお聞きしたところ、
「撮るという行為において、ドローンももはやスマホと同じツールです。撮影した素材をどう活かすかを考えると、ドローン周辺領域の仕事・市場も広がるし、SNSを上手に活用している女性の感性はこれからもっと武器になると思います。」
とご回答いただきました。これからますます楽しみですね!
「建物」と「人」の安全を第一に考え進化する建築ドローン、今後の展開にも注目です。
ドローンジョプラスも「ドローン」に興味を持った方がまず訪れたくなるようなプラットホームを目指し、進化し続けます。