一般的に農業の現場では農薬散布や生育状況などの画像データ収集といった役割を担うことが多いドローン。
今回は鳥害対策として鳥を追い払うという、新たなドローンの活用方法を確率した岩手県農業研究センターに、スマート農業の最新状況も含めお話を聞きました!
農業の分野においても活躍が期待され、注目を集めているドローン。
日本農業新聞公式ウェブサイトにて過去1年間に掲載された”スマート農業”や”ドローン”に関する記事は、およそ200件。
日本全国で多様な取り組みが始まっていることがわかります。
今回はその中でも、「ドローンを使った水田における鳥害対策」を発表された岩手県農業研究センターの上席専門研究員・山口氏にお話を伺いました!
これまでドローンジョプラスでも農業におけるドローン活用法として、農薬散布や害虫駆除、田植えや画像解析による収穫予測など様々な事例を紹介してきました。
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今回発表されたドローンの活用方法は、水田に飛来するウミネコやスズメを追い払うというもの。新たな視点でのドローン活用法を生み出した山口氏にお話を伺うと、
山口氏―――
ドローンで鳥を追い払うというのは、他でもあまり聞かない取り組みかもしれませんね。(笑)
農業において、昔から鳥や獣による被害は問題視されていました。
獣であれば罠を仕掛けたり、田んぼや畑の外周に電流の流れる柵を設置するなどして対策できます。
ところが、鳥は空から飛んでいくため同じようにはいきません。
現状はホームセンターで売っているキラキラ光るテープや目玉のような風船、タカやワシに似せた凧を飛ばして対応していますが、これもすぐに慣れてしまい、なかなか受け身の対策では難しいと悩ましく思っていました。
そこに、5年ほど前になりますが国の研究機関である農研機構革新工学研究センター(現在の農業機械研究部門)のドローン担当の研究員から「岩手県で鳥害対策としてドローンを試してもらえないだろうか」と声をかけて頂き、取り組みがスタートしました。
山口氏―――
ドローンを使ってウミネコ、スズメ、カラスといった害鳥を追い払おうと思った時に、「よし!鳥が飛んできたから、ドローンを飛ばすぞ!」では四六時中誰かが監視している必要があり、非効率です。
そこで、自動航行の出来る機種を採用し、定期的に飛ばす実験をしました。
その結果、ウミネコの場合であれば「苗植えをした直後から2〜3週間程度」、スズメの場合には「穂が出た直後の2〜3週間」と一定期間に限定し、「1時間に1回自動航行する」ことで効果が実証されました。
ドローンを飛ばす期間を2〜3週間程度に限定したことで、害鳥がドローンに慣れることもなく十分な効果が発揮されたのだと思います。
この取り組みは日本農業新聞を通じ、全国に広く知られることになりました。
その反響は大きく、日本全国北から南まで他作物の農家さんも含め、多くの問い合わせがあるそうです。
このように、今でこそ世間で注目を集める「スマート農業」ですが、どのようにしてその認知を獲得し現在に至ったのでしょうか。
岩手県での「スマート農業」の起源や現状についてお聞きしました。
山口氏―――
平成28年度、私が県庁に在籍していた時はまだ「スマート農業」という言葉は認知されいません。
当然、事業さえもありませんでした。
一方で、県内の先進的な農家さんでは、ドローンによる農薬散布や自動運転のトラクターなどの導入を始めるところが出てきていました。
そこで、県としても勉強も兼ねて事業をスタートさせます。
平成28年度はゼロ予算だったので、平成29年度に立ち上がった「いわてスマート農業推進事業」が本格的な事業スタートですね。
山口氏―――
当初は農薬散布ドローン自体が一体300万円する機種や100万円未満のものもある状況で、「どれが自分の農業経営に適しているのかわからない」「買ってはみたものの結局活用出来ていない」という農家さんからの声がありました。
これは、岩手県としてドローン等、スマート農業の情報を整理すること、また県内へ導入できそうな技術は農業研究センターで実証する必要があるなと感じました。
大きな農家さんにはドローンメーカーだけでなく農機具メーカーが直接売り込みに行き、数千万円の設備を購入することはあります。
また、ドローンの他にも、ビニールハウスの環境モニタリングシステムなどその種類は多岐にわたります。
このように、スマート農業は高価な機器も多いのでしっかり情報を整理し、適切なものを提案することが必須になります。
商業や工業など、他の産業では当たり前にしている経営判断が、農業においてはまだまだ曖昧な部分も多いんですね。
まさに”農業におけるコンサルタント”のような存在が必要というわけですね!
山口氏―――
経営面だけではなく、実際に機器としての有効性を調査することも必要です。
例えば農薬散布一つをとっても、「手で蒔く」、「無人ヘリで散布」、「ドローンで散布」とやり方はある中で、実際の農薬の付着率や病気や害虫をどれほど抑えたのか結果を調べる必要があります。
農業研究センターでは、それらを明らかにするため地道な調査を行い、そこで得た研究成果はできるだけ早く県内の農家さんにもお伝えしたいと思っています。
実際の農業の現場ではどの程度スマート農業が浸透しているのか、現在の岩手県内のスマート農業の導入状況についても伺いました。
山口氏―――
現在まで、一番普及しているのは直線走行をアシストする田植機やトラクターです。
その次が農薬散布ドローンですね。法改正があったことで、県内の農家さんも相当数導入しています。既に、県内には100台以上は入っていると思います。
そして三番目にビニールハウスの環境モニタリング機器とそれに対応した制御機器です。
東北全域で農業が盛んです。
岩手県は、農産物では他県のような特色はないのですが、実は畜産が有名で農業産出額の半数を占めています。
畜産の現場でも、繁殖農家が牛舎に取り付けたカメラで監視していた時代から、万歩計で動きを解析したり、牛の体温変化をモニタリングしてデータ解析をするなど、スマート農業が普及しています。
ドローンは、牧草地をモニタリングして牧草の成長を管理するのに役立っています。
ここまでのお話で岩手県内では「スマート農業」が様々な形で進んでいることがわかりました。
今後さらに実現していきたいことを山口氏にお聞きしました。
山口氏―――
農業において、今後ドローンに期待される役割は大きく3つあります。
1.農薬散布、2.写真データからの生育解析、3.鳥獣害対策です。
ドローン自体の技術開発はかなり進んでおり、あとは「誰が飛ばすのか?」という問題です。
モニタリングでも害鳥を追い払うのでも、現状では飛ばせる人がいないのです。
農家さんも日々の農作業に忙しく、なかなか手が回らないのが現状です。
今後の飛躍的な効率化向上のためにも、次にドローンに求められるのは「無人化・自動化」の壁を超えることですね。
山口氏―――
農家の皆さんに「スマート農業」を説明する時、「何ができるようになるのか」を具体的にイメージしてもらうことを大事にしています。
その際に、一番理解してもらいやすいのが「農作業の無人化・自動化」なんですね。
例えば、農家の方が寝ている間にドローンが畑や水田をモニタリング、そのデータをAIが判断し、収穫に適したものを自動収穫したり必要に応じて農薬散布や肥料散布、自動草刈り機が無人で対応する、そんな光景です。
技術的にはすでにクリアしている部分が多いはずなので、次は法律面やその他の問題をどうやってクリアして実用化していくかだと考えています。
山口氏―――
先ほど述べた通り、ドローンはもう十分に技術の発展をしてきました。
スマート農業やドローンに限らず、出来ることには限界もあるので、同時にドローンにとってやりやすい、ロボットが働きやすい作物の栽培方法や品種開発も必要だと考えています。
これからさらにスマート農業が普及するためには、「ロボット技術の進化」と「作物の栽培方法や品種改良」、両方の側面から研究開発を進める必要があります。
例えばオウトウ(さくらんぼ)では生け垣のように樹を揃えて栽培することで、面積あたりの収穫は下がりますが、作業効率は上がり収穫しやすくする取り組みも実施されています。これは、スマート農業にも応用ができると考えています。
山口氏―――
農家の数の減少と高齢化は全国共通して農業が抱えている課題です。
しかし、農家が減ること、すなわちライバルが減ると捉えると、これはチャンスでもあります。
農家の数が多いとライバルが多く田畑も増やせませんが、今は農地を広げることが出来るのでスケールメリットを活かせるようになります。
スマート農業は規模が大きいほど効果が出やすく、農林水産省をはじめ県としても重点的に支援しスマート農業を推し進めています。
スマート農業による経営・農作業の効率化を図る事で、農業はこのチャンスを最大限に活かす事が出来ると考えています。
「農業分野でのドローンの活躍を知ってほしい!」と、幅広く知識と豊富な経験から惜しみなく語って下さいました。
取材後、「本当は野菜の研究者なんです」とこっそり教えてくださった山口氏(アスパラガスやきゅうりの栽培に関する論文発表多数!!)。
スマート農業のお話を聞きながらも、所々で垣間見えた野菜の研究開発に対する情熱のルーツがわかり合点が行きました。
ドローン技術の発展と栽培技術の発展。その相乗効果で進化を続ける「スマート農業」のこれからが楽しみですね。
ドローンジョプラスでは、今後も岩手県はじめ国内外における農業分野でのドローンの活躍を発信しながら、一日も早くドローンが生活の一部となる世の中の実現に貢献します!
※農林水産省が主導する「スマート農業実証プロジェクト」についてはこちらの記事もご参照ください
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